翻訳の際にもっとも重要な技術とは

2011.08.05

翻訳は、外国のすぐれた文化や情報、少なくとも日本のものとは違う文化や情報を学び、日本に伝えることを目的としている。では、原著者から学んだものをどのような手段で伝えるのか。翻訳者に与えられている手段は通常、ただひとつである。訳文がその手段なのだ。この点を考えるなら、翻訳に必要な三つの技術、すなわち、外国語を読む技術、内容を理解する技術、日本語を書く技術の三つのうち、なにがもっとも大切なのかはあきらかである。外国語を読む技術、内容を理解する技術がいくらすぐれていても、読み、理解した内容が読者に伝わらなくては、意味がない。読み、理解するのは、読者に伝わる文章を書くためなのだ。だから、翻訳の際にもっとも重要な技術は、日本語を書く技術である。日本語を書く技術がもっとも重要だとする理由は、これにとどまらない。日本語を書く技術が高ければ、それに見合った水準まで、外国語を読む技術と内容を理解する技術も高まっていくのが通常である。日本語を書く技術こそが、翻訳の技術の根幹なのだ。日本語を書く技術が高いほど、内容を深く理解しようという欲求が高まる。内容を深く理解して納得しなければ、一語たりとも書けなくなる。だから、内容を理解する技術を高めるために努力するようになる。翻訳に取り組む分野に強い興味をもつようになるので、情報も自然に集まる。専門家が訳した専門書の訳者後書きに、「浅学非才を省みず、勉強のために翻訳を行ったが、云々」と書かれていることが少なくない。