かなり以前に友人から聞いた話である。先進国と呼ばれる国々は、人口がほとんど増加しないために、将来は国力が低下するのではないかと悩んでいる。一方、発展途上国と呼ばれる国々は、人口の爆発的な増加が目に見えているため、1人当たりの国内総生産額の増加が期待できず、将来も国力は発展しないのではないかという悩みを抱いている。遅れて先進諸国に仲間入りさせてもらっている日本に、発展途上国と同じような悩みを抱いている企業は少なくない。高度経済成長の時代に多数の社員を採用し、新規事業の開拓に熱心に取り組んで多角化はしたものの、オイルショック後の低成長時代を経験し、さらにバブルがはじけて新規事業を縮小したあとも、膨大な数の社員を抱えているからである。ことの起こりは、鉄鋼会社、石油会社、化学会社などかつての超優良企業の多くが、社員の数を増加させないで企業を発展させる途を再び模索しはしめたことにある。もっとも手っ取り早い分野は、以前は前途洋々と見られていたエレクトロニクスであった。最近はバイオテクノロジーや情報技術(IT)、そしてナノテクノロジーも人気である。つまりとりあえず、これまでの商いとは違う新規分野への事業戦略をとったということだ。新規事業分野に成功すれば、余剰人員はその事業に吸収できるはずである。しかし、そんなにうまい話は転がってはいない。そのため、新規分野の事業戦略を立案担当する本社部門のメンバーは、ほとほと疲れきっているのが常である。友人の会社でも、そうであった。そんなある朝、新聞を眺めていた友人の娘が突然言ったそうである。「インドネシアでは、電気が来ていない村は電気が来ている村よりも赤ちゃんの数が8・3%も多いんだって。なぜ」知人とその配偶者はどうしたものかと顔を見合わせた。どこまで真実を語るべきなのか。「コウノトリが赤ん坊を連れてくることは知っているね。コウノトリの巣が多い地域ほど生まれてくる赤ん坊の数も多くなるという事実をちゃんと調べたフランス人がいるんだ」「フーン。じゃ、電気が来ていないところにはコウノトリがたくさん住んでいるってことなの?」娘の不満そうな顔を見て、知人は親としてついついルビコン川を渡ってしまった。「人生にとって、見たいものはしっかり見て、見なくてもいいものは見ないことが大切だっていうのはわかるだろう」「わかるけど、それが電気とどう関係あるの」「電気があるってことは、夜は電気の光で明るいってことさ。見なくてもいいものやはっきり見えないものに限って、とくに見たくなっちゃうものなんだよ。暗いと見えないんだろう。ということは」「関係ないじゃない!電気がないことと赤ちゃんが多くなることと、なんで関係があるのかを知りたいだけなのに」「人間にとって明かりがとても大切だ、ということがわかればいいんだよ。わからないかな」「ますます、わかんない!」何とか無事に切り抜けた友人は、その夜、久しぶりに出会った私に娘との朝の会話を語ったのである。私は感心して言った。「なるほど。コウノトリの話は科学史、経済史、文化人類学史に記録されるべききわめて価値のある事実だな。そうだよ!光、ひかりだよ。」